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秋の夜長。
Yです、こんばんは、こんにちは。

またも零崎さんちのお話です。萌を追求したい(何)。
原作にはあんまり出てこない人が登場。
むいねえさん、基本的に年下に興味がないのかしら。

ではでは、よしなに~。




2.蒼の氷山と紫の薬屋

 むいは自室にこもっていた。
決して狭くはない部屋の側面を天井まで覆う、小さな引き出し、引き出し、引き出し。この部屋に壁はほとんどない。入って左右の壁は、天井までぴたりとはまった特注のスライド式の箪笥――本棚の棚が全部15センチ四方の引き出しになっているというと想像しやすいだろうか――で埋まっている。引き出しにはそれぞれ番号の札がついている。
 部屋の中央には広いテーブルがあり、一見無秩序に、彼女には最適な状態で、様々な器具と、いくつかの抜き出された引き出しが置かれている。
 此処は彼女の仕事場。彼女の城。
 湿度、室温などが年中一定にコントロールされた、作業場兼、貯蔵庫1。さらにデリケートな材料は別の場所に保管されているし、此処にあるのが彼女のコレクションの全てではない。
 彼女は薬屋。扱う品の合法・非合法かどうかなど、感知しないもぐりだ。

「・・・・・・?」
 耳に微かに高音がひっかかった。電話だと気付いて、手にしていた大きい乳鉢を机に置くと、さっと机の上の安全を確認してから部屋を出た。鳴り続ける子機を手に取ると、窓辺へ向かう。
「はい。私です」
 『むい。眠いです』
 簡潔すぎる報告が耳朶をうった。
「・・・・・・直さん。今、日本ですか?」
『うん。近くにいます。1時間12分後まで』
 珍しく長くいるではないか。むいは計算している。
「どのくらい、時間を割けます?」
『30分。どのくらいで出られます?』
「15分で」
 『わかりました。車を回します』
「大通りまで出ますから、そこで拾ってください」
 『ん』
 電話が切られる。
 むいは先ほどまでいた自室に戻り、迷うことなく2・3の引き出しを開けると、調合済みの薬を鞄に詰め込んだ。試作品の栄養剤を持っていくか迷ったが、まだ双識に試してないんだった、と思いとどまる。
さすがにジーンズはまずいか、と白いロングスカートに替えて、簡単に化粧を済ませると、携帯と時計を手にして外に出た。大通りを目指す。

 電話の相手は、彼女の最重要顧客だ。
 彼女の安定した生活を保障しているのは、間違いなく彼であり、それを条件に、彼女は彼を何より優先させる。
 口さがのない連中は、彼女を彼の囲われ者という。
 彼とは、玖渚 直。
 政界に君臨する玖渚七機関の総括・玖渚家直系子息にして、現玖渚機関の機関長秘書。
 世界で三番目に忙しいといわれるこの人物は、今、必至に眠気と格闘中らしい。

                   **

 玖渚直のよこした車に拾われて、ついた先は案の定、彼のために最高級の一室が常に用意されている(しかし使用されるのは正確に加算しても、年一週間もないはずだ)付近有数のホテルだった。ジーンズでやってきたら小気味良かったかもしれないと思いながら、むいは迷うことなく、個人専用のエレベータに向かって歩いていく。
 会うのは初めてではない顔なじみの側近のおかげで、煩雑さはかけらもなく、問題の人物の元へと通される。

 玖渚直は、眠くならないようにか、窓際の太陽が燦燦と照る下で立って書類を読んでいた。話しかける前に、おおきなソファのテーブルを見つけて簡単に準備をする。
「むい、あと5分」
「はい。腕だけいただけます?脈を」
「ん」
 カフスボタンできっちりと留められたシャツの腕をむいはとった。
「少し多忙すぎでは?」
「あと5年以内に、一番上にのぼりたいですから」
「・・・・・・」
 比喩では半ばない、天下をとると言い換えられる壮大な野望を天気予報のように口にした雇用主を、むいはちらりと伺ったが、気象予報士は、気象予想図から目を離さなかった。
 童顔と言っていい柔和な顔立ち。柔らかそうな髪をゆるくかきあげて留めている。素直そうに澄んだ目は、内面を語らない。ある意味では最も警戒すべき人物の特徴。
 脈を取り終え、5分経ってソファに自分の時間をとった直に二・三質問して、薬の配合率を決める。
いつもどおり注射を終えると、むいは手を洗いに席を立った。
「むい、むい」
「はい?」
 部屋に戻ると、ここにこいと直が手招きしている。近づいていくと腕をとられ、ソファに坐らされた。むいがなんだろうと思っていると、直は彼女のひざを枕代わりにして横になった。
「30分で起こしてください」
 いつもの紳士ぶりはどこへやらの傍若無人さに、むいは相当疲れているらしいと息をついて諦め、三十分後の時間を確認して、時計から目を離した。

・・・・・・。
「直さん、お時間ですよ。起きて」
 肩を揺する。
 がばり、と起き上がり、直は膝枕の主をみた。
 さすがに寝起きがいい、とむいは思う。
「おはようございます」
 彼は、無言でがばっと彼女にだきついた。
「直さん?」
 んん~と濁点つきの音声で喉を鳴らしながら、感触を確かめるように腕を動かされて体を擦り寄せられる。今まで寝ていた人間特有の高い体温がむいにはっきり伝わった。
「むい・・・・・・」
 通常より二段階くらい低いねぼけ声が、むいの肩口で振動する。
「はい」
「………結婚して………」
 他人の奇行に慣れている薬屋は、少し間をおいてゆっくり患者を諭し始めた。
「…直さん。セクハラして、寝言言ってる場合ではありませんよ。いまもう、38分です」
 今度こそ彼は本当に起きた。しかし起きたのは体だけで、頭はその目から察するに半分以上まだ寝ている。寝起きに良かったのは反射だけだった。冷静にむいがそう観察していたら、ちゅ、とその唇に不意に直はキスをした。
「!?」
「おはようのキス」
「……それは普通、私からするものでは…」
「シャワー浴びてきます」
「いってらっしゃい」
 
 むいが気持ちを散らそうと息を強く吐くと、そんなことは許さないというように突然、直の携帯電話が鳴った。奥に消えた持ち主を、慌てながら呼ぶ臨時の持ち主。
「直さんお電話が!」
「出て!」
「は、え、えー…」
 つい先ほどの5分間よりあせりながら、むいは対応の態度を秘書風に決めて通話ボタンを押した。
「はい。玖渚直の携帯ですが、いまちょうど席を外しておりまして・・・・・・」
「うに~」
 可愛いかわいい、声が聞こえた。
「友ちゃん?」
「うに?むーちゃん!」
 蒼い髪の、声と同じく可愛い容姿が思い浮かぶ。持っている携帯電話の主人の、たった一人の溺愛する妹さんだ。
「久しぶりさんだよ~、むーちゃん」
「はい。お元気ですか、友ちゃん」
「ういうい、ぜっこーちょう♪直くん、いまだめなんだ?」
「ええ、いまシャワーを・・・・・・」
 むいはそこではっと気付いた。
「まって、貴女の電話を取り次がなかったら、私怒られます」
「でも直くん今真っ裸でしょ?」
「…まあ、何度か見ていますから」
 相手も気にしないのでは、という前に友が反応した。
「きゃー」
「いえ全く色気のない理由ですよ」
 むいは言いながらバスルームに向かう。
「うにー、わかってるけどさー。もう、今日という今日はなんかした?直くん」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・、なんでもないよ~」

 水音が響く扉を叩いて、声をかけた。電話の相手を告げると思ったとおり、水音が止んで扉が開いた。タオルと携帯を手渡し、出てきた相手にバスローブを羽織らせ、通話の邪魔にならないように注意しながら髪をふいてやる。
「友がかわれと言っています」
「はい?」
 携帯を手渡し、直は奥に消えた。話の内容は、また遊びにきて、というものだった。もう兄に話はないからと、蒼色サヴァンはじゃあね、と一言電話を切る。
 その間に真新しいシャツとスラックス姿に着替えた直がやってきた。
「どっちがいい?」
「こちらが」
 右手に持っていたネクタイをとって結び始める。
「髪が生乾きですね」
「すぐ乾くよ。・・・・・・むい」
「はい」
 またがばりと不意打ちで抱きつかれた。
「直さん……?」
「じゅうでん」
「…………」
 数年前、飛行機の中で出会ってから、むいと直のこの奇妙な関係は続いている。
by sillybible | 2011-10-23 22:22 | その他
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【Seventh Day】の別館。主にWJ系の取扱が多いですが、他のジャンルも思い付くままにちらほら…。漫画や本の感想、二次創作を載せて行きます。ギャグがメインなので、苦手な方は御注意下さい。

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